CP+2018新製品

©SIGMA

 今年のCP+では3本の新レンズ、2つの製品アップデートがあった。


・Art単焦点レンズEマウント用追加
 SLR用のArt単焦点レンズ9本(内、新レンズ2本)のEマウント版が発表された。 いままでもMC-11でSAマウント及びEFマウントをEマウントでも使用できたが、EマウントネイティブとなることでAF-C等での使い勝手が向上したらしい。
 しかし、SLR用をそのまま流用するのは14mm、20mm、24mm、35mmあたりでは非常にもったいなく思える。これらSLRのフランジバックよりも短い焦点距離はレトロフォーカス構成となるためだ。最初からショートフランジバックを前提とした設計に比べれば、特に大きさ・重さの点では非常に不利となる。
 昨年のCP+で「DN」が「DC DN」になったため、ミラーレス専用の35mm判対応「DG DN」も開発しているのだろうが、今回のアップデートはその発表が間に合わなかったためにお茶を濁しただけのようにも思える。
 70mm、85mm、105mm、135mmでは仮に同スペックがDG DNで登場したところでSLR用と比較して旨味は少なくなると思うので、中望遠のE版は必要であれば入手するのも良いと思われる。
 おそらく今後DG DNレンズが登場するならば、まずはズーム。その後は広角を優先し、中望遠は後回しになるのではないだろうか。
 私個人としてはEマウントを持っていないし、仮に購入することがあったとしてもSAメインでMC-11を使用すると思うので関係ない。


・キヤノン製カメラのレンズ光学補正に対応
 EFマウントを持っていないのでこちらも私には全く関係がない。
 もともとSIGMAのレンズは光学補正を前提として考えているレンズではないので、補正がなくとも特に問題はないはずだ。(ContemporaryのDC DNを除く)
 とはいえ周辺光量などはどれだけ前玉を大きくしてもコサイン4乗則に伴う光量落ちは物理的に避けることができず(周辺光量チャートにおいてF11でも光量落ちゼロにはなっていない部分が物理的な限界。ただし14-24/2.8の広角側のように変曲点がある場合は口径食によるもの)、また歪曲収差もdp0Q以降の広角レンズでは徹底的なまでに「ゼロ・ディストーション」にこだわっているが特にズームレンズでは真にゼロにはできない。それら物理的な限界を超えるための補正としては有用であるはずだ。
 一点、CP+の社長講演では「周辺光量、色収差、歪曲収差、それから回折補正。全てONにできます」との発言があったが、プレスリリースを見ると

対応する補正機能は「周辺光量補正」「色収差補正」「歪曲収差補正」の3 種類です。

との文言がある。どちらが正しいかははっきりしないが、講演で使われていた画像では回折補正はOFFになっていたためプレスリリースが正しいのではないだろうか。


・14-24mm F2.8 DG HSM | Art
 広角大三元。防塵防滴と前玉の撥水防汚コーティングも施されている。
 昨今のSIGMAの例に漏れずゼロ・ディストーションを掲げ、事実他社同クラスに比較して歪曲は非常に少ない。
 構成図を見ると前玉側から非球面2枚を含むメニスカス凹レンズが4枚使われており、非点収差を発生させないよう緩やかに光線を曲げているように見える。MTFではこの画角、かつズームレンズであることを考えると非常に優秀でサジタル・メリディオナルも均質になっている。星に向いていそうだ。
 一点気になっていた点がある。仕様表に

最短撮影距離 26cm*(*24mm時の値)

とあるが、これはもしかしてバリフォーカルなのでは? そう思いCP+で触ってきたが、120-300ほどのピント移動はなかった。
 しかしArtでSports同等の防塵防滴が掲げられると、ではSportsとはなんぞや? という疑問が生じてくる。24-70/2.8ArtのContemporaryっぽいまとめ方といい、C・A・Sの住み分けが曖昧になってきたなぁと感じる。
 さて、このレンズは非常にいいレンズであろうと期待できるしここでも褒めたが、私は買わない。14/1.8も20/1.4も24/1.4も持っているし、私が待望しているのは8-16の後継なのだ。


・70mm F2.8 DG MACRO | Art
 私はミラーレスが嫌いだ。
 嫌いな理由の4割はEVF。残りの6割はフォーカスバイワイヤである。
 バイワイヤは回転角と移動量の関係が回転速度により変化し、無限遠・最短時がフォーカスリング突き当りの感触では判別不可能で、電源OFF時に操作できず、(少なくともキヤノンSTMでは)一定時間放置後は省電力のためかフォーカスリングが反応しなくなり、ごくごく微量の入力ではレスポンスがない。
 回転速度による移動量変化はメリットでもある。低速の回転では移動量を減らすことで仮想的な最短-無限ピントリング回転角を360°以上にもすることができるため微調整に向く。また、単焦点では関係ないがバリフォーカルでも電子制御でズームレンズとして使用できる。
 そういった利点を重々承知した上で、私はバイワイヤが嫌いだ。優劣ではない。好き嫌いだ。
 待望の70mmマクロの後継はバイワイヤになってしまった。非常に残念だ。
 CP+の会場で少しだけ触ったが、MFは微調整専用のようだ。素早くフォーカスリングを回しても最短付近から無限遠へは一息には行かない。バイワイヤであることの違和感はミラーレス初期のものと比べるとほとんど無かった。だからといって好きになるものではないが。
 今回、ニコン用が用意されていない。これはバイワイヤであることが関係しており、使えないわけではないが使い勝手に問題が出るから、らしい。ネット上ではAF-Pで電源切時に無限遠に戻す制御がないため、前玉が伸びるレンズでは使えないのではないかと言われている。
 バイワイヤ以外の点については不満に思うような部分はなさそうだ。防塵防滴ではないが、コスト面に直接跳ね返ってくる部分なので悪いことばかりではない。
 旧EXの70マクロではテレコンは(物理的には付くのだが)非対応だったが、今回はテレコン対応だ。これにより撮影倍率2倍まで撮影できる。
 嬉しい点がレンズフードだ。旧EXではフィルタネジへのねじ込みで取り付けだったが、今回はバヨネットとなっているため脱着が非常に楽になった。
 またフォーカシングにより前玉が前後するが、これがフード内で前後するようになった。この点が非常にありがたい。
 レンズフードの役割には遮光以外にレンズの保護がある。この点でこのフードは最高の役目を果たしている。旧EXではフォーカシングにより前玉が被写体に接触する危険性があった。最短付近での撮影でもフードを付けていたら被写体とフードが接触し、さらにフードの影が被写体に落ちてしまう。今回のフードはそういった煩わしさが全く無い。つけっぱなしで全ての撮影がこなせるだろう。
 遮光の面でもデメリットばかりではない、と思う。インナーフォーカスのレンズではピント面を近接にした際にブリージングが発生し画角が広くなる。レンズフードはその画角でもケラレが生じないサイズに設計しなければいけない。今回の新70mmでは前玉が伸びるお陰でブリージングの影響を考えずにフードを設計できる。とはいえこのフォーカス方式でどこまでブリージングがあるかはわからないし、所詮丸型フードなのだが。
 今回、「カミソリマクロ」の名称が使われている。これは2006年にデジカメWatchで使われてからSIGMAの70mmマクロを表す代名詞となっていた。こうした名称を公式に使われるのは珍しい。
 正直、「カミソリマクロ」の名称をそのまま使ってくれてよかったと思う。個人的には「ライト・バズーカ」や「BOKEH-MASTER」は、うーん? と思ってしまう。
 最初にバイワイヤについて色々と書いたが、このレンズは予約購入する。


・105mm F1.4 DG HSM | Art
 今回の新製品で一番楽しみなのがこのレンズ。
 105mm F1.4というスペックはNikonが既に出しているが、正直当時のニュースを聞いたときにはこんなスペックSIGMAが出したに違いないと思った。その時の期待に違わず、105/1.4を出してくれた。
 CP+では一般の展示ブースだけではなく、有料のセミナーも行っている。今年のSIGMAの有料セミナーはこのレンズについてだった。要点をざっくりとまとめる。
 105mmのターゲットレンズは85mm F1.4と設定した。85mmは非常に優秀なレンズだが、唯一軸上色収差のみ僅かに大きい(とはいえ旧EXに比べると非常に少ない。実際に使っている私の感覚でも、MerrillでならともかくQuattroで使うにあたっては軸上色収差を問題に感じたことはほぼない)。軸上色収差は輝度の高い被写体の周囲にパープルフリンジを生じ、ボケの周辺に色付きを生む。
 105mmではFLD・SLDレンズをふんだんに使うことでこの軸上色収差を低減している。資料にはg線・d線・C線のスポットダイアグラムが紹介されている。詳しい条件は話されていなかったが、おそらく無限遠時にd線が最小錯乱円になる条件でのものだろう。この条件では全ての波長で錯乱円が小さくなっており、軸上色収差の小ささがわかる。また、「全ての」と書いたとおりd線の錯乱円も小さい。解像力も85mmより高くなっているわけだ。
 次に「BOKEH-MASTER」と名乗るとおりボケ味にも考慮している。無限遠時には球面収差の縦収差図はほぼ直線、極僅かアンダーよりなものが、近接になるとよりアンダー側に倒れる。これにより近接時の後ボケが滑らかになる効果を生む。ボケのスポットダイアグラムも載っていたが、周辺ほど薄くなっていた。この点、三次元的ハイファイを標榜するNikonにどこまで迫れるだろうか。
 口径食は開放ではわずかにあるが、F2.0では周辺部までほぼ丸いボケが得られる。公開されている周辺光量のデータではF2.8でも像高20mmあたりから口径食が生じているためゼロというわけではなさそうだが、実写を見る限り口径食が目立ってはいなかった。
 非球面を使用した際の玉ねぎ・年輪ボケも少ないとのこと。これは以前行ったボケ味計測の85mmでの結果を見るに期待できる。

ボケ味を評価する | 五海里
http://illlor2lli.blogspot.jp/2018/01/bokehtest.html

 また、資料にはなかったが光学設計もメカ設計も星好きが設計しているらしく、星にも向いたレンズとのことだ。開放のMTFを見るとサジタルがメリディオナルよりも落ちているが、これは絞ることで改善しやすいサジタルコマフレアを残し、メリディオナル方向を優先した影響とのこと。少し(1段か2段かは失念)絞るとメリディオナルはあまり変化しないがサジタルは敏感に改善するため、点が点として写る。絞った状態ではMTF上でもサジタル・メリディオナルの差が少なくなっていた。
 他に逆光耐性についても解説されていたが、ArtのDG単焦点を全て持っている私の感覚としては逆光に強いといえるのは14mmだけなので、果たしてどれだけのものか実際に使ってみないとなんとも言えないと思っている。
 このセミナーは一般的な宣伝文句よりも技術的な部分に踏み込んだ解説がされており、それでも私でも理解できる内容だったため非常におもしろかった。
 さて、セミナーでは光学面の話ばかりだったが、その他の部分についても触れよう。
 まず三脚座。最初からアルカスイス互換となっている。雲台を改造してまで全ての三脚をアルカ互換で統一している私には嬉しい。また、この三脚座は脱着可能となっており100-400のような化粧リングで三脚座なしの運用も可能になっている。しかし取り外し可能であるということは50-100/1.8のような上質な滑らかさとクリック感はないかもしれない。
 次にレンズフード。取り付け方法がバヨネットではなく超望遠と同じ方式になっている。これはフード先端にゴム部分があることから、立てて置くことを想定しているものと思われる。個人的にはこの短さのレンズを立てることはないと思うので、フード脱着に手間がかかるデメリットが目立ってしまう。フード形状も不思議なのだが、このサイズで105mmの画角に対応してるのだろうか?
 また、一点残念なことがフォーカスリミッターがないこと。105/1.4の被写界深度ならばリミッターがあったほうが嬉しかった。
 鏡胴は14-24と同じくSports相当の防塵防滴と前玉の撥水防汚コーティングが施されている。
 重量は(発売前の現時点で)1645g。三脚座を取り外せば50-100mmとそう変わらなさそうだ。私は特に苦には感じない。
 CP+会場ではショーケースの中で実際に触ることはできなかったため、発売は70mmよりも後になるのではないかと思う。しかし70mmのバイワイヤのような懸念がひとつもない。今回の発表で一番楽しみな製品だ。当然予約して購入する。

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