ボケ味を評価する


 レンズの性能のひとつとして語られることも多い「ボケ味」。これは評価としては他の解像力や色収差、歪曲などとは違って、見た目の印象からの定性的なものしかほぼ存在していない。
 そこで、ここではボケ味の良し悪しを決定するための一要素を計測し、光軸中心における特定距離の後ボケという限定的な領域での評価を行う。

 計測方法は以下。
・撮影対象は赤色LEDとする。
・レンズのピント位置は最短。ただし冒頭写真のように隣のLEDと重なりそうな場合は極力大きくなる位置とする。
・対象のボケは光軸中心に配置する。
・撮影距離はレンズによって適宜変更する。
・撮影後、ボケ部分のみを正方形にトリミングし、ニアレストネイバーにて100*100pixelに縮小、上下左右の四方向で中心からピクセルの明るさを記録し、その平均を取る。
・計測結果をグラフ化し、評価する。

 この測定方法では主に球面収差の影響が現れる。現実には光軸中心以外ではコマ収差・非点収差・口径食などの影響が現れるため、この結果はあくまでボケ味を構成する一要素しか判断できない。
 また、2パターン撮影したレンズの結果を見ればわかるが、撮影距離とピント位置の組み合わせで収差の変動がある。そのためSTFのような特殊レンズでなければピント位置によっては良くも悪くもなる可能性がある。


・SONY 135mm F2.8[T4.5] STF



 左側が中心、右側がボケの端になる。
 さすがSTF、見事な曲線で周辺が減光されている。ボケ味の絶対王者だ。
 意外だったのが50サンプル中22まではほぼ減光がないことだ。APDエレメントの構造上、中心からすぐに減光が始まっていると思っていた。


・Carl Zeiss Vario-Sonner T* 24-70mm F2.8 ZA SSM @24mm



 撮影環境の都合上、大きく撮影できなかったため50サンプルではなく45サンプルしか取得できていない。
 グラフを見ると外周部でやや明るさが増している部分があるが、中心よりは減光されているのでそこまで目立たないのではないかと思う。


・Carl Zeiss Vario-Sonner T* 24-70mm F2.8 ZA SSM @70mm



 見ての通り外周部で大きく明るさが増している部分がある。縦収差図ではややオーバーコレクションとなっているのではないかと思われる。
 このレンズは殆ど使っていないのでボケ味についての印象はないのだが、おそらく二線ボケするだろう。ただ前ボケに関してはなめらかな描写をしてくれるはずだ。


・50mm F1.4 EX DG HSM (BBL)



 ここからはsdQHでの撮影となるため、ベイヤー機に比べ細かい上下が敏感に現れる。
 改造レンズのBBLは傾向としてはSTFとよく似通っているが、Foveonでの撮影であることを加味しても細かい上下が多い。ボケをよく見てみると渦巻き模様のようなものが見える。凸と凹でAPDを構成するSTFとは違い、薄板でAPDを作っているBBLはこのような模様で効果を作っているのだろう。
 現実には放射状ではなく渦巻状となっているため、これが目立つことは少ないはずだ。


・85mm F1.4 DG HSM | Art



 明るさの分布はほぼ完璧に均一だ。おそらく縦収差図では収差が殆どないのだろう。
 これだけ均一であれば解像力も高いはずだ。この測定は光軸中心でのものだが、球面収差が少なければコマ収差も少なく、85mmという中望遠であれば非点収差も少ないはずなので画面全域で高い解像力が期待できる。というか実際に解像力は高い。
 ボケ味に関しては良くも悪くもなく、また前ボケと後ボケの差もほぼないだろう。
 また、非球面レンズには付きものと言われる年輪ボケ・玉ねぎボケと言われるような模様は見えない。面精度が高いということだろうか。


・135mm F1.8 DG HSM | Art



 135mmは85mmと同じ傾向だ。ごく僅か外周部で明るさが上がっている箇所があるが、二線ボケになるほどではない。
 今回の測定とは関係ないが、冒頭に載せた写真はこの135mmなのだがやや口径食が見られる。Art85mmより入射瞳径が大きいのに、なぜかフィルタ径は小さくなっている影響だろう。


・35mm F1.4 DG HSM | Art(その1)



 個人的にボケ味がよくない印象のあるArt35mm。
 このレンズは2パターン撮影しており、こちらは
撮影距離:0.95m
ピント位置:約0.4m
 という条件で撮影したものだ。
 見事な年輪ボケで外周部も明るさが多少高くなっている。ボケ味はあまり良くない。


・35mm F1.4 DG HSM | Art(その2)



 こちらの撮影条件は
撮影距離:0.6m
ピント位置:約0.3m
 となる。
 この条件も年輪だが、外周部の明るさ変化はあまりない。その1の条件よりはマシなボケで、85mmや135mmに近い傾向だ。


・24mm F1.4 DG HSM | Art(その1)



 Art24mmもボケ味が悪いため2パターン撮影している。
撮影距離:0.95m
ピント位置:約0.4m
 のパターンだ。
 ボケは年輪。最外周部が明るさのピークになっておりかなり悪い。おそらく縦収差図ではオーバーコレクション気味だろう。後ボケは二線ボケする。
 STFが良いボケ味の見本ならば、この24mmは悪いボケ味の見本のようだ。


・24mm F1.4 DG HSM | Art(その2)



撮影距離:0.6m
ピント位置:約0.25m
 のパターン。
 その1よりは良いが年輪はそのまま。最外周部がやや明るく、その範囲が狭い。Art35mmのその1のように明るくなってはいるが範囲が広い場合は目立ちにくいが、こちらは条件によっては二線ボケが見えるだろう。


 レンズ7本・10パターンの計測を行った。最初に書いているようにこの結果はボケ味の一要素でしかないが、使用していてボケ味が悪いと感じるものはグラフに如実に現れた。
 最初は得られた数値からボケ味を評価するスコアをつけようかと考えたが、うまいスコアの算出方法が思い浮かばなかったためやめた。
 他のレンズに関しては測定する予定はない。手動で1pixelずつ明るさを見ているので、手間がすごいのだ。

0 Comments:

コメントを投稿