SIGMAから40mm F1.4が発売された。
 今回のフォトキナで発表されたレンズの中で一番期待していたものだ。発表時点からその重さ大きさ、レンズ構成、MTF曲線を見てこれは凄まじいレンズになると確信していた。CP+で発表され、実際に凄まじいレンズだった105mm F1.4と同じ雰囲気を纏っていたのだ。

 まずはレンズ外観だが、今回のフォトキナ発表分のレンズからハードウェアに大きな変更がひとつあった。レンズフードだ。


 フードにボタンが付き、ロックが可能になった。これによりフード紛失のリスクが大幅に減り、また花形フードでロック位置まで回さなかったことによるケラレのリスクも減った。個人的にはそのどちらも経験していないが……
 SONYの135mm STFのようにロック感が皆無なフードもある中、こうした細かい部分にも配慮されているのは嬉しいところだ。
 このボタンはフード内側にある爪に連動しており、ボタンを押すと爪が引っ込む。


 このロック機構は特殊ネジ5本でネジ止めされており、コストが掛かっていそうだが高級感がある。

 このレンズの焦点距離40mmであるが、中には中途半端に感じる人もいると思う。これはSIGMAのレンズとしては初のシネレンズ用として開発されたことに起因しており、シネレンズとしては40mmは一般的だかららしい。
 しかし、スチルにおいても40mmという焦点距離は有用ではないだろうか。
 私は常々「標準レンズ = 50mm」の図式に疑問を持っていた。50mm、狭くないか?
 PENTAXからはFA43mmというレンズが発売されている。これは撮像面対角線長が標準レンズの焦点距離であるという考え方からきているもので、35mm判の対角線長43mmを焦点距離に持つこのレンズは「真の意味での標準レンズ」と謳われている。
 また、写真はトリミングにより換算焦点距離を伸ばすことは簡単であるが、逆に換算焦点距離を縮める方向への加工はどうやったってできない。物理的に不可能である。
 そう考えれば「対角線長 = 標準レンズ焦点距離」の考え方から43mmを50mmに丸めるのは意味不明。丸めるのであれば40mmにすべきだろう。
 以上よりこの40mmという焦点距離こそ本来「標準レンズ」として広まっていなければならなかったのではないだろうか。私はカメラの歴史については無知なためなぜ50mmが標準になっているのか知らないが……
 と、書いたはいいが現在SAマウントFoveon機に35mm判が存在しない。このレンズは来年発売する予定の35mm判Foveonで標準レンズとして使うのが楽しみだ。
(余談だが、FA43mmを「真の意味での標準」とまで謳うPENTAXが、つい最近まで自社のカメラがAPS-CだけだったのにDA28mmを出していないのも意味がわからないと思っている)

 もう一点、さすがにこれに触れないわけにはいかないだろう。大きさと重さである。
 本レンズはフィルター径φ82、重さが1200gだ。なんと、Artの明るい単焦点レンズの中で105mmに次いで二番目に重い。85mm F1.4と135mm F1.8ですら1130gである。発売当時、紹介するメディア全てが大きい、重いと言っていた50mmでも815gである。標準域のレンズとしては破格の大きさ、重さであろう。


 この写真、左から105mm、40mm、85mmだ。
 ちょっとした望遠のような佇まいである。105mmを別に重くないと言った私でも認めざるを得ない。標準レンズとしては、重い。

 では、その重さと引き換えに得られる写りはどのようなものだろうか。
 以下に作例を載せる。

_DQH1012
【sd Quattro H, 40mm F1.4 DG HSM | Art 018, @40.0 mm F2.8, 1/800sec, ISO100】

_DQH1021
【sd Quattro H, 40mm F1.4 DG HSM | Art 018, @40.0 mm F1.4, 1/125sec, ISO100】

_DQH1026
【sd Quattro H, 40mm F1.4 DG HSM | Art 018, @40.0 mm F1.4, 1/500sec, ISO100】

_DQH1028
【sd Quattro H, 40mm F1.4 DG HSM | Art 018, @40.0 mm F2.8, 1/60sec, ISO100】

_DQH1034
【sd Quattro H, 40mm F1.4 DG HSM | Art 018, @40.0 mm F2.0, 1/500sec, ISO100】

_DQH1037
【sd Quattro H, 40mm F1.4 DG HSM | Art 018, @40.0 mm F2.0, 1/400sec, ISO100】

 冒頭に105mmと同じ雰囲気を感じたと書いたが、まさにそのとおり。5ヶ月前に105mmの鮮烈な写りに感動したばかりであったが、その感動をもう一度、であった。
 開放から切れ味のあるピント面、にもかかわらず十分に良好なボケ。開放でも素晴らしい解像力は1段ほど絞ることで画面全域に渡って均質になり完璧と言っていい。軸上色収差も非常に少なく三枚目中央の玉ボケに多少見られる程度だ。なおこの軸上色収差はFoveonで目立ちやすく現像時にフリンジ除去を行っていないため、ベイヤーでの撮影や現像処理によってはほぼ現れないだろう。この写りは105mm F1.4がそのまま40mmになったかのようだ。
 あえて弱点をあげるのならば、ボケ味は105mmにはかなわないだろうか。
 しかし、1200gを持ち運ぶだけの価値はある。そもそも40mmという焦点距離で考えれば重いレンズだが、持ち運びはともかく構えて撮るときには1200g程度苦になるはずがない。
 今持ち歩く単焦点を3本だけ選べというならば14mm、40mm、105mmの3本を選ぶ。この3本があれば何でも撮れそうだ。
©Lマウントアライアンス

 フルサイズミラーレス旋風吹き荒れる2018年。ライカ、パナソニック、シグマの3社はフォトキナ2018にて『Lマウントアライアンス』を発表した。
 これはライカがすでに販売しているライカSL、TL、TL2、CLに採用されているLマウントを、ライセンスが付与されたパナソニック・シグマも共通して利用し、各社のカメラ・レンズを相互に利用できるものだ。仕組みとしてはマイクロフォーサーズ規格と似たものとなる。

 さて、我らがSIGMAはこのLマウントアライアンスへの参加でどのような動きを取るか。フォトキナにて今後の方針が発表された。
・2019年に35mm判Foveon機をLマウントで出す。
・今後SAマウント機の開発は行わない。
・SAマウントレンズに関しては当面の間継続して販売する。
・SA-L、EF-Lのマウントアダプタを開発し、Lマウントカメラと同時に発売する。

 1993年発売のSA-300から続いたSAマウント機25年の歴史が、幕を下ろした。

 正直に言えば、寂しさがある。ショートフランジバックのLマウントしか採用しないということは、一眼レフは今後出る可能性がゼロということだからだ。
 しかしカメラの動作が全体的に遅いFoveon機にとってミラーレス化というのは正統進化である。さらにsdQがミラーレス化した時点でマウント変更も必然だった。

 DMC-G1が登場して10年。35mm判も各社出揃い全盛期を迎えるミラーレスでも、いまだに一眼レフがアドバンテージを持つ部分は存在する。遅延ゼロの光学ファインダーとAF速度だ。
 ファインダーは言わずもがな。AF速度に関しては位相差のみで合わせる関係上、精度を犠牲にしても速度は速い(ミラーレスの像面位相差でもコントラスト式の追い込みを省けば似たような速度になる可能性はある)。
 しかし、それらの利点がどこで生かされるかといえば、主に動体撮影だ。
 ではSIGMA製カメラで動体撮影を行うか?
 SAマウント機において最速の連写速度を持つSD1でも5枚/秒(画質設定を下げれば6枚/秒)であり、7枚撮影すれば書き込み完了までに1分半を要する。そもそもAFが弱くAF-Cで撮影してもピンボケ写真を量産するばかり。MFで動体を追え、少ない枚数で上がりを得られる特殊な技能を持っていなければ使えるものではない。それならばEOS Kissでも持ってきたほうが歩留まりがいいだろう。
 つまり、SIGMA製の一眼レフにおいては「動体に強い」というメリットはそもそも存在していない。ならば光学ファインダーを捨て去ることにデメリットはない。
 sdQが光学ファインダーを捨てて失ったものはほぼなく、代わりに得たものはSD1では夢のまた夢だった完璧に近いピント精度だ。私はsdQ発表時点では否定的だったが、Foveon機にとってミラーレスという道を進むことは今考えれば当然であった。

 さて、ではミラーレス化が必然であったFoveon機では、フランジバックの長いSAマウントを継続して採用する理由があるか?
 まったくない。マウント変更も当然の選択である。

 改めてSAマウントというものを考えてみると、SIGMAにとってビジネス的にはお荷物であった可能性が高い。
 汎用性がゼロで数がろくに出ない自社専用マウントでも、ラインナップに乗せるということは製造と在庫管理に要するコストがどうしてもかかってくる。
 SGVのマウント交換サービスとMC-11の登場、さらにsdQの初値8万円という価格で販売本数は多少は上向いただろう。しかしコスト面だけで見ればデメリットのほうが大きかったのではないか。
 しかし、それでも、たとえAマウントを省こうと、たとえKマウントをやめようと、SAマウントだけはすべてのレンズでラインナップしてくれた。
 これはお金の数字だけを見ているならばできることではない。現にAマウントもKマウントももう出ていない。SAマウントがKマウントより売れていたなどとは思えない。
 今現在の豊富なSAマウントレンズラインナップは、ひとえに自社カメラを購入しているユーザへのSIGMAの誠意だろう。
 やろうと思うのであれば「ContemporaryではSAマウントを出さない」「古いレンズのSAマウントはディスコンにする」などの選択肢もあった。
 しかし、今現在SAマウントはSIGMAの全レンズを欠けることなく網羅している。
 こうして考えるとSIGMAには感謝しかない。
 いままでSAマウントを維持してくれたSIGMAにも、素晴らしい写真体験を与えてくれたSAマウント自身にも、ありがとうとお疲れ様を伝えたい。
(とはいえ、SAマウントレンズの製造はまだしばらく続くが……)

 SIGMAは次の選択肢にLマウントを選んだ。数という基準ではライカもSIGMAも弱いが、パナソニックのカメラならば数は出るだろう。Lマウントアライアンスがどこまで盛り上がるかは今現在未知数だが、今後SIGMAは自社専用の数が出ないマウントを維持するという苦しみからは解放される。
 これもひとえにSIGMAレンズの評価の高さがなしえたものだろう。プレスリリースではライカより「光学設計とレンズ製造の分野では、確固たる地位を築いて」いると評価されている。
 SA-300を発売した1993年には、電子接点を備えたKマウントを利用することができず、数多ある安価な互換レンズメーカーの一つとして他社と協業することもできず、自社専用マウントという茨の道を進むしかなかったゆえのSAマウントだったのではないかと想像する。
 現在、特にSGV以降のレンズの高評価によって良いパートナーに恵まれることができた。
 SIGMA製カメラの大きな転換点として、新たな門出を素直に祝福したい。

 ここからは新製品の話をしよう。
 来年、SIGMAから35mm判Foveon機が発売される。現時点では本機に関する情報は全く無い。
 Foveonの35mm判化については懸念が二つある。一つはダストプロテクタだ。
 sdQHの実物を見ればわかるが、SAマウント自体はフィルム時代からのマウントであるため当然35mm判をカバーしているものの、デジタルから追加されたIRカットを兼ねたダストプロテクタの枠を考慮するとマウント径が非常に小さくなる。現在のAPS-Hはプロテクタ内径を考えると限界ギリギリの大きさだろう。このプロテクタを続けるのならば、少なくともSAマウントでは35mm判を採用するのは不可能と思っていた。
 ではLマウントではどうか。おそらく、不可能に変わりはない。取外しを可能にするためにバヨネットの爪内径より小さく、数mmの枠を持ったプロテクタを配置するとEマウントよりも実質の内径が小さくなるだろう。また、ショートフランジバックであるがゆえに厚みのあるプロテクタを配置できない可能性があり、配置できてもレンズのバックフォーカスが限られてしまう。Lマウントの仕様は公開されていないため確認できないが、20mmのフランジバックに縛られずバックフォーカスを極限まで縮める設計を許容している場合はプロテクタの配置は不可能だ。
 そのため、おそらくIRカットはセンサに積層することになるのではないだろうか。その場合のダスト対策はどうなるかは不明だ。可能性は非常に低いが、ボディ内手ぶれ補正を搭載してダスト対策を加えてくれるならば最高なのだが。ライカのカメラにボディ内手ぶれ補正がないため望みは薄く、Lマウントの規格がボディ内手ぶれ補正を認めているかもわからない。
 二つ目は35mm判センサの膨大なデータ量をどうするか。山木社長は過去、「35mm判のFoveonは実現可能だが、中判のような使い勝手になる」と語っている。これはデータの処理時間を指したものではないかと思われる。
 SD1からsdQ/sdQHに変わって書き込み時間がかなり短くなったのは非常に快適だったため、もう一度SD1の水準まで戻るようなことはできれば避けてもらいたいものだ。
 データ量にも関連することだが、Foveonセンサの構造がどうなるかも不明である。Merrillまでの1:1:1構造へ戻ることはおそらくなく、Quattroの4:1:1のままなのではないかと考えている。
 もう一点、Foveonを他社と共通のマウントにすることへの懸念もある。過去にも記事にしている周辺部の色被りである。
 とはいえ、これはQuattroでは非常に少なくなったため補正は容易なのかもしれない。
 しかしオールドレンズ母艦としての運用では、レンズ情報が無いため流石に補正は不可能だろう。
 ひとつ馴染めるかどうか未だにわからないものがある。私がミラーレスを嫌っている二つの理由のうち片方のEVFについては流石に慣れた。しかし、フォーカスバイワイヤはArt70mmを使っていて苛立ちしか感じない。ミラーレスネイティブとなるのならばおそらくレンズはフォーカスバイワイヤとなるのだろう。これだけは耐えられるかわからない……

 レンズに関しては28mm F1.4と40mm F1.4は確実に購入する。
 特に40mmは非常に期待が高い。105mm F1.4の感動をもう一度味わえるのではないかとわくわくしている。
 40mmはSIGMA製レンズとしては初めてシネレンズとしての使用を前提として開発されている。そのためフォーカスブリージングが少ない可能性がある。スチルでは特に関係ない性能だが。
 また、今回のレンズからフードがロック付きとなったようだ。どのようなものかは実物を触るまでわからない。早く実物を触ってみたいものだ。
 28mmも40mmほどではないものの非常に高性能を予想させるMTFだ。サジタルがメリディオナルよりも低めだが、これは105mmと同様に絞ったときに改善しやすいサジタルの収差を残すというバランス取りをした結果ではないだろうか。おそらく1段ほど絞れば画面全域で均質な描写を得られるものと思われる。

 SAマウント機の開発が行われないという情報は、レフ機を求めていた私には残念な情報ではあったが、はっきりと明言してくれているだけありがたい。E-5はいつの間にか販売が終了しており、Qマウントマクロは未だ発売されない。そのようになんの音沙汰もなくフェードアウトする製品もあるなか、SAマウントの今後についてアナウンスするのは非常に誠実な対応をしてくれている。

 さて、ほかにもこまごまとした言いたいことはあるのだが、このあたりにしておこう。
 SIGMAはまだまだ面白いものを見せてくれる。こんなに見ていて楽しいメーカーはない。

 私はメガネがないと生活がままならないド近眼である。乱視は殆どないのだが、右目が-8.25D、左目が-7.50Dという度数のメガネを使用している。
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【追記】
更に度数は進み、乱視も入ってきた。
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 ところで、メガネも光学製品である。そのためカメラオタクが興味を持ち、こだわりを持ち、複数本持つのは自然の摂理と言える。

 現在所有しているメガネは以下の通り。

・ZEISS プンクタール ガラス球面 n=1.60, v=41.7 (999.9)
・伊藤光学 ガラス球面 n=1.52, v=58 (GOLD&WOOD)
・ホッタレンズ(TSL) 1.7AE1-SV ガラス非球面 n=1.70, v=52 (Amiparis)
・東海光学 ベルーナJX-CVf プラスチックオーダーメイド両面非球面 n=1.70, v=36 (999.9)
・TALEX プラスチック偏光球面 n=忘れた (ZEAL OPTICS)
・忘れた プラスチック球面 n=忘れた (Line Art)

 nは屈折率、vはアッベ数を表す。アッベ数の意味については後述。

 この内メインで使用しているのはZEISSのプンクタール1.60だ。また、この他にHOYAのガラス球面、999.9のニコンOEMプラスチック両面非球面を持っていたがレンズ交換により現在はない。低屈折率のプラスチック調光レンズも持っていたが、こちらは現在諸事情によりフレームごと持っていない。
 これ以外にも小学生の頃からさまざまなメガネを使い続けてきた。その経験からベストなメガネレンズ選びについて私見を述べたい。


  • 「いいレンズ」とは?

 材質や収差の知識がない人は、レンズを選ぶときはメガネ屋が提示する選択肢から選ぶことがほとんどだろう。その場合に提示されるものは
1. 材質はプラスチックのみ。
2. グレードの選択は屈折率の高低で、高屈折率のほうが高い。
3. 設計は球面か非球面か両面非球面か。非球面・両面非球面のほうが高い。
4. 耐傷・防曇・ブルーライトカットなどの機能性コーティングの有無。
 これら4種類の組み合わせくらいになる。レンズメーカやアッベ数などは特に知らされないことが多い。
 知識がない人がこれらの情報から「いいレンズ」を選ぼうと思うと、評価基準は値段くらいしかない。そうなると「高屈折率・両面非球面・機能性コーティング付き」が最高のレンズとなる。
 さて、そのレンズは本当に「いいレンズ」なのだろうか? 結論から言うと、少なくとも私は絶対にそのレンズは選ばない(遊びで作る場合を除く)。
 ここで「いいレンズ」とはなにか、定義を決めておく。ここで言う「いいレンズ」とは、収差が少なく視界に違和感を生じないレンズだ。他者からの見た目は評価に含まない。
 上述の高いレンズをその基準で見た場合、「いいレンズ」と評価することはできない。では高いお金を出したぶんは何に反映されているのか? 答えは「薄さ」だけだ。
 一般的なメガネ屋では薄さ至上主義のような説明をされることが多く、視界の良好さについては説明が難しく個人の感じ方にも差が大きいこともあって触れられることは皆無と言っていい。そのため、この記事で「いいレンズ」の条件を説明しよう。


  • プラスチックか、ガラスか?

 現代のメガネレンズは99%がプラスチック製だ。しかしガラスという選択肢も一度考慮に入れてみてほしい。
 ガラスのメリットは
・耐傷性が高い。(コーティングにもよる)
・透過率が高い。
・アッベ数が高い。(高屈折率の場合)
・屈折率が高い。
・枠入れ時の歪みがほぼない。
・耐熱性が高い。
 などがある。
 透過率の高さはメリットがわかりにくいかもしれないが、わずかでも明るければ瞳孔が小さくなることで収差の影響が減り、視界の品質が良くなる。また、プラスチックレンズの場合はレンズを枠に固定するときの力でレンズが僅かに歪んで度数にムラができてしまうのだが、ガラスの場合はそれがない。
 私は視界の良好さを追求するならばガラスをおすすめする。

 とはいえ、当然デメリットもある。
・衝撃で破損の危険がある。
・フレームの選択肢が少ない。(ハーフリム・ツーポイント等が不可)
・重い。
・非球面設計がめったにない。
・売ってない店も多い。
 このうちフレームの選択肢と重さは人によっては致命的にもなる。またスポーツに使用するならば破損時のことを考えて避けたほうが無難だ。
 そのため、ここは好みで選んでしまっても構わない。


  • 屈折率は高いほうがいいのか?

 ここまでの文章を読んでもらったならば高屈折率は良くないという結論になることは分かると思う。その理由を説明しよう。
 屈折率を高くして得られるメリットを列挙すると
・レンズが薄くなる。
・ごくわずかだけレンズが軽くなる(ことが多い)。
 以上だ。

 ではデメリットの方を挙げると
・アッベ数が低くなる。
・場合によってはごくわずかだけレンズが重くなる。
・値段が高くなる。
 まずはアッベ数とはなにか説明しよう。簡単に説明するとアッベ数とは色収差の出にくさだ。一般的に屈折率が低いほどアッベ数は高くなり、数字が高いほど色収差が少ない。一般的なメガネ用レンズでは59が最高、30が最低となる。(私の所有メガネのうちホッタレンズの1.7AE1-SVが屈折率1.70でアッベ数52を確保しているのは例外中の例外なので参考にしてはいけない)
 このブログを読むカメラオタクならば色収差(この場合倍率色収差)とはどういうものか知っていると思うが、念のために簡単な説明をするとレンズの端の方で白黒の境界部を見た際に赤や青の色にじみが見えることを言う。
 私の個人的な感覚ではアッベ数42あれば色収差が気になることは少なく、それ以上のアッベ数52、58では42のときと大きな差は感じない。逆にアッベ数36では色収差が大きすぎて常用する気にならない。車の運転中にサイドミラーを見たときなんかは低アッベ数では気になって仕方がない。このあたりは個人の感覚によって許容範囲が変わる。36でも気にならない人はいるだろう。
 また、色収差が発生すると解像力も低下する。これはSIGMAの105/1.4が85/1.4に比べ色収差を改善したことでMTFも大きく向上したことからも分かるだろう。
 次にレンズの重さについて。一般的には高屈折率でレンズが薄くなれば無条件に軽くなると思われているが、それは不正確だ。というのも、屈折率が高くなると比重も高くなってしまうためである。例として東海光学のプラスチック素材でn=1.60と1.76の比重を比較すると、1.30と1.49となっている。つまり高屈折率レンズを使用することによって体積が86%以下まで薄くならなければ、逆に重くなってしまうということだ。
 ここでフレームのレンズ幅が小さく、度数も低い近視用メガネを考える。レンズ中心部は0.8〜1.5mm程度の厚みが必要で、レンズ幅が小さければ体積に一番差が出る周辺部は使われず、度数が低ければ厚みの差も非常に小さくなる。この条件では体積86%以下を達成できない組み合わせも稀にだが発生する。また、重くなるとまではいかずとも期待したほどは軽くならないことは分かるだろう。
 値段に関しては言わずもがな。高い金を払ってろくなメリットもなく色収差のデメリットを買いたいか? 私はゴメンだ。


  • 非球面は見え方が良い?

【追記】
 以下の文章は球面の補正についての説明と体感について書いており、乱視の補正が入ったレンズについてはこの限りではない可能性がある。

 メガネ屋でSEIKOが作っている球面と非球面の比較用什器を見たことがある人は多いと思う。球面レンズでは糸巻き型の歪曲収差が大きく見え、周辺部の像が流れているようなやつだ。ついでに「はっきり見える範囲が非球面のほうが広い」と書いてあったりする。
 率直に言うが、あれは詐欺だ。
 まず球面と非球面の比較だが、あれは非常に深いカーブを持ったレンズを凸面側から離れて見させている。実際のメガネの装用環境では浅いカーブのレンズを凹面側から目のすぐ近く(一般的に角膜頂点間距離12mm)で見ている。これだけ条件が違えばなんの参考にもならないに決まっている。実際に球面レンズのメガネを使っている人なら分かると思うが、球面でもあれほどの歪曲が発生することはない。そもそも、アレは糸巻き型歪曲が出ているが近視用メガネで出るのは樽型歪曲だ。
 また、非球面のほうが広い範囲ではっきり見えるという広告だが、それも嘘である。正確に言えば「球面・非球面以外の全ての条件を同一に揃えれば正しい」と言えるのだが、そんな設計をするメーカはない。
 では非球面とは何をしているのか? 答えはまーた「薄さ」だ。
 同一度数でメニスカス凹レンズを薄くするにはベースカーブ(対物側・凸面のカーブ)を浅くすればいい。ただし単に浅くするだけでは非点収差が増加し、周辺像質が急激に悪化する(この辺は超広角レンズに出目金が多い理由と同じ)。非球面はその悪化した非点収差を球面レンズと同等レベルまで戻すという役割を担っているのだ。
 つまりまるで視界を良くする技術かのように宣伝されている非球面だが、その実はレンズを薄くするためだけの技術なのだ(東海光学のベルーナMUクリアリータイプやCVfはそうとも言い切れないが)。
 ちなみに実際の歪曲収差についてだが、手元のZEISSプンクタール球面、ホッタレンズ1.7AE1-SV非球面、東海光学JX-CVf両面非球面で比較するとプンクタール球面が一番少なく、東海光学の両面非球面が一番大きい。以前持っていたニコンの両面非球面も樽型歪曲が非常に大きかったので、非球面で歪曲が小さいという宣伝文句も果たして信用できるのだろうか。これに関しては私の知識不足で理論的な説明ができないが……
 歪曲の具合の参考として、メガネ越しにスマートフォンのカメラで撮影した画像を載せる。レンズとスマートフォンの距離、被写体までの距離等を固定して撮影できるわけではないので、あくまで参考だ。

ZEISSプンクタール(球面)

東海光学ベルーナJX-CVf(両面非球面)

 (ちなみに、ハイカーブレンズと言われるレンズは深いカーブを持つにもかかわらず見え方が悪いと言われているが、これはフレームそり角の影響で光軸が外を向くためにカーブが深くても非点収差が強く出るからである。真正面から見れば頂点間距離にもよるが見え方は良いはずだ)

 さて、つまり非球面設計というものの特徴は「薄い」。それで終わりだ。「いいレンズ」かどうかにはあまり関係がない。
 どころか、歪曲を考えると球面のほうがいいとすら言える。しかし樽型歪曲が大きいレンズも光軸中心付近でものを見る場合にルーペを通したようにわずかだけ大きく見えること、他者から見たときに輪郭のズレが小さく見えることというメリットもあるので、一概に悪いと断定できるものではない。私は嫌いだが。


  • おすすめのレンズ

 今までの話をまとめると、「いいレンズ」とは
・できればガラス
・高アッベ数(≒低屈折率)
・できれば球面設計
・機能性コーティングはお好きに
 というレンズとなる。視界の良さを追求すると、最も安いレンズが最も良いレンズとなるのだ。
 具体的なおすすめとしてはやはり私もメインで使用しているZEISSのプンクタール1.60か、ホッタレンズの1.7AE1-SVだろう。特に1.7AE1-SVは屈折率1.7でアッベ数52というスペックは唯一無二のものだ。非球面設計であるが歪曲もそこまで気にならない。ただしレンズ銘柄決め打ちで考えると売っている店が全く見つからずに苦労する可能性も高い。私は隣のそのまた隣の県までメガネを買いに行ったことがある。
 また、ZEISSや1.7AE1-SVでなくとも、プラスチックであってもこの方針は覚えておいて損はない。特に度数が強くない人の場合、高屈折率のレンズを選ぶのは無意味と言っていい。どうしても自分の視界よりも他者からの見た目を気にするという人でなければ、一番安いレンズを選ぶべきだ。
 メガネ屋の立場で考えれば高いレンズを売りたいのは分かる。ここで説明したような内容を全ての客に理解してもらうのも土台無理な話であるし、具体的に厚みの数字を提示して営業できる薄さ偏重の風潮になるのは十分理解でき仕方のないことだろう。
 なので視界の良さで選びたい人は自分で知識を付けて自分で選ぶしかない。この記事を読むことで良いメガネライフを送ってもらいたい。

 SIGMAのSportsラインフラグシップ、ゴーヨンを入手。私の所有レンズの中で最長の焦点距離、最大の入射瞳径のレンズだ。


 このレンズの特徴の一つは、SIGMA製レンズの中で唯一レンズ側に(切り替えスイッチではなく)ボタンがあることだ。レンズ先端側にあるボタンでAF-ON、AFL、フォーカスプリセットを使用できる。動き物を撮らない私は活用することはなさそうだ。


 また、レンズフロントキャップが一般的な超望遠と同じく布のかぶせ式になっている。この点は致し方ないが、脱着が面倒であり使い勝手は良くない。そう考えると120-300mmの105mmキャップは超望遠の入り口である300/2.8でも利便性を失わない便利な装備だった。キヤノン、ニコンは300/2.8でも布のかぶせ式となっている。まあ、300÷2.8の計算結果を考えると105mmのフィルタ径は良いことばかりでもないのだが。


 閑話休題、このレンズが間違いなく世界一と言いきれる点が一つある。三脚座である。50-100mmを持っている方ならわかるが、三脚座の回転に適度なトルク感がある。ピントリングやズームリングのトルク感は気にする人も多くメーカもこだわっている部分だが、三脚座にまでトルク感を持たせているメーカはなかなかない。更に縦位置横位置の切り替えを簡単正確にするために90度刻みのクリック感があり、のみならず一脚で流し撮りをする際にそのクリック感が邪魔になることがあるという声からクリック感のON-OFF切り替えまで装備している。一般的な三脚座はレンズを支えて角度が変えられればそれでよいというレベルで終わっているが、SIGMAはそこからひとつふたつ進んだ次元の三脚座を作り上げた。
 前述の通りスチル用レンズでもピントリング・ズームリングのトルク感を気にする人は多い。ならば三脚座でも同様に評価されることは考えてみれば当たり前だ。この三脚座は現在存在するレンズの中では確実に世界最高のものである。


 一つ辛いのが、アクセサリー類の値段だ。フロントプロテクターは専用品となり、定価54,000円。PLフィルタは専用のドロップインタイプが別売りで定価48,600円。三脚座をアルカスイス互換に換装するレンズフットは定価30240円。これらを一式揃えたらかなり良いレンズが買えてしまう。フロントプロテクターは専用のレンズキャップが付属するため使い勝手が向上するだろうし、PLも欲しくはあるし、レンズフットも全てアルカ互換で統一している身としてはあったほうが便利だが、流石にポンと買える値段ではない。数が出ないだろうから仕方がない値段なのだろうが……


 使い勝手の面では、やはり3310gは重い。105mm F1.4を特に重いと思わない私でも流石にこれは重い。しかし120-300mmより80g軽いのだ。更に重心位置を考慮すると120-300mmよりも多少扱いやすい。絶対的には確かに重いのだが、120-300mmよりはまだマシなレベルだった。

 以下、作例。

_DQH0932
【sd Quattro H, 500mm F4 DG OS HSM | Sports 016, @500.0 mm F4.0, 1/1250sec, ISO100】

_DQH0933
【sd Quattro H, 500mm F4 DG OS HSM | Sports 016, @500.0 mm F4.0, 1/320sec, ISO100】

_DQH0984
【sd Quattro H, 500mm F4 DG OS HSM | Sports 016, @500.0 mm F4.0, 1/80sec, ISO100】

_DQH0990
【sd Quattro H, 500mm F4 DG OS HSM | Sports 016, @500.0 mm F4.0, 1/125sec, ISO100】

_DQH0996
【sd Quattro H, 500mm F4 DG OS HSM | Sports 016, @500.0 mm F4.0, 1/100sec, ISO100】

_DQH0998
【sd Quattro H, 500mm F4 DG OS HSM | Sports 016, @500.0 mm F4.0, 1/100sec, ISO100】

 使ってみた感想としては、やはり重い。そして被写界深度が薄い。更にはかなりの大きさのため、このレンズが入るカメラバッグがない。持ち運びに難儀する。
 この被写界深度のおかげでピンズレにより歩留まりが悪い。手持ちのsdQHで使うにあたってはAF動作中に手ブレしているとAFの合焦率が著しく低く、そのためほとんどMFで撮影していた。
 画角と重さによって手持ちではどうしても手ブレが発生するが、補正が優秀なためか1/100ではほとんどブレは見られなかった。
 写真はすべて開放だが、ピント面の解像力に関しては文句のない描写をしている。さすが「MTF直線」だ。
 ボケに関しては後ボケは癖が少ないが、前ボケはややうるさく感じる。また、最後のバッタの写真を見ると開放では口径食があるためにグルグルボケ気味になっている。
 とはいえ総合的な描写としては大きな欠点はなく優秀だ。

 さて、このレンズ購入したはいいが、私はもともとここまでの望遠は殆ど使わないのだ。何を撮るか、どこに持っていくか悩む……

 かつてSIGMAから発売されていたマクロレンズ、MACRO 70mm F2.8 EX DG。硝材のディスコンにより販売中止となった通称『カミソリマクロ』が、SGVのArtラインとして復活した。


 まずは外観だが、旧70mmと比べるとわずかに細く長くなった。フードがだいぶ長くなったため、フード込みではかなり長くなった印象がある。重さに関してはどちらもほぼ同じくらいだ。むしろ新型のほうが10g軽くなってすらいる。
 大きな変更はフードだ。旧70mmはなんとねじ込みフード。脱着の利便性としては最悪だ。逆付けもできない。そしてフォーカシングに応じて繰り出す前玉にフードが付く構造だ。これは一般的。
 新しい70mmはバヨネットとなり、脱着の利便性が大きく向上した。また、フード固定部が前玉部ではないため、フォーカシングによってフードが動かない。これがマクロ撮影ではありがちな「近接撮影時に被写体にフードがぶつかる」「近接時にフードの影が被写体に落ちる」といった現象を防いでいる。このフードはとても良くなった。
 最大の特徴はフォーカスバイワイヤになったことだ。私はフォーカスバイワイヤが大嫌いなので先入観を持って試したが、思ったほど悪くはなかった。特にAFで使う分には、当たり前だがなんの違和感もない。ただHSMに慣れていると駆動音がうるさい。動画でAFを使う人は確実に駆動音が録音されてしまうだろう。
 バイワイヤなためMF時に回転速度に応じてピントの移動量が変わるが、その変わり方が唐突な印象がある。ピント合わせを行う際、ゆっくりと回転させると0.1mm単位の微小なピント調節を行うような速度だが、そこから少し速度を早めると突然5mm単位くらいでの荒い調整をするような速度に加速する。前者は遅すぎ、後者は早すぎる。そしてその中間がなく唐突に速度が切り替わるため、ピントの行き過ぎが発生する。三脚を立て厳密なピント合わせを行うには良いが、手持ちでややラフにピント合わせをするならば扱いにくい。
 しかしこれは電子制御によるものだ。ファームウェアアップデートによって改善する可能性はある。現状に慣れた人にとってはいまの操作感を捨てることにもなるので、一概にアップデートされたほうがいいとは言い切れないが……
 今回の70mmのためにsdQ/sdQHのファームアップが行われ、電源OFF時にフォーカスが無限遠へと戻るようになった。しかしレンズ交換時には当然自動で縮んでくれはしないため、レンズ交換はいちいち電源を切るかMFで無限遠に戻す必要がある。SD1以前のカメラでは電源OFF時に無限遠復帰の機能もない。SD10以前のカメラでは公式に非対応を明言されているが、手持ちのSA-300で試したところ「AFは動くがMFは反応なし」という動作だった。そのためSD10あたりでもAFだけならば動くと思われる。ただし無限遠に戻す手段が存在しない。
 ちなみに同ファームウェアでSFD時に高速側SSを1/500までに制限する機能が追加された。私が社長にリプライしたものだ。こうした意見を取り入れてくれるSIGMAが私は大好きだ。ちなみに低速側の制限はないんでしょうかね……?
 全体的なデザインもいままでのArtレンズとはやや文脈が異なっているように感じる。その一番の理由は「細い」からだと思うが、マウント部がストレートに伸び距離指標窓がないだけで見た目がだいぶ変わって見える。

 光学性能だが、まずは旧70mmと比較してみよう。マクロレンズであるが近接での評価は難しいので、無限遠で評価する。

・中央解像度

新70mm旧70mm
F2.8
F4.0
F5.6

・周辺解像度(APS-H 左下)
新70mm旧70mm
F2.8
F4.0
F5.6

 旧70mm、優秀すぎやしないだろうか。初めてカメラを買ったときに同時に買ったレンズでありながら実力をチェックせずに使っていたが、これはすごい。『カミソリマクロ』と呼ばれるのもわかる。
 中央ではF5.6で両者同等だが、F2.8、F4.0では旧70mmが明らかに勝っている。
 周辺部ではF2.8で新70mmがごくわずか良い。F4.0以上では差異はないように見える。
 「さすが最新設計の新型は違うな!」と言おうと思っていたのだが、少なくとも無限遠に関しては旧型に対するアドバンテージはない。これは新型が進化していないというわけではなく、旧型が優秀すぎるのだ。

 以下、作例。

_DQH0957
【sd Quattro H, 70mm F2.8 DG MACRO | Art 018, @70.0 mm F5.6, 1.6sec, ISO100】

_DQH0958
【sd Quattro H, 70mm F2.8 DG MACRO | Art 018, @70.0 mm F5.6, 0.5sec, ISO100】

_DQH0959
【sd Quattro H, 70mm F2.8 DG MACRO | Art 018, @70.0 mm F2.8, 1/4sec, ISO100】

_DQH0960
【sd Quattro H, 70mm F2.8 DG MACRO | Art 018, @70.0 mm F5.6, 1.3sec, ISO100】

 解像力は旧型と変わらず良い。カフリンクスの写真では馬のマークを見ると1px単位で解像しているのがよく分かるし、チェーンの写真は掃除していないのがよくわかってしまう。ボケも良いが、ソケットの写真を見るに口径食が見られる。旧型よりも前玉径がわずかに小さくなっており、その影響だろう。
 無限遠の性能では旧型の後塵を拝したが、近接域では『カミソリマクロ』は健在だ。また、絞らずとも周辺部が流れるようなことがなく均質に写るのも優秀だ。
 ある種伝説的とまで言える『カミソリマクロ』の後継を名乗るだけあって開放時の口径食以外の問題は全く感じない。105mm F1.4を使ったときのような強烈な衝撃はないが、非常に優秀なレンズに仕上がっている。

 現状、旧型の70mmは入手が困難だ。『カミソリマクロ』の描写を求めて旧型を探していた人にはこのレンズはおすすめできる。これはまさしく『カミソリマクロ』の正当後継だ。
 旧型はフードの使いにくさ、AFのうるささ、フォーカスリング操作感の品質といった点で時代遅れな面もある。今買うならば新型で間違いない。最近のSIGMAにしては軽く小さいのも特徴だ。
 ニコンユーザーの方は、AF-Pレンズで前玉が伸びるものが出るよう祈っておこう。

 SIGMAより105mm F1.4が発売された。今年のCP+で発表された中で最も期待していたレンズだ。


 今回、レンズの付属品がいつもより多かった。レンズケースに取り付けるストラップ以外にストラップがもう一本、ビスが二本とビス用の六角、三脚座用の化粧リングが一個。
 ストラップは三脚座に取り付けるためのものだ。私はストラップをつけるにしてもPeak Designのアンカーを付けるので無用。ビスはアルカ互換三脚座の底面に取り付け、対応する雲台で脱落防止ピンとして働く。私はこのタイプの脱落防止に対応する雲台を持っていないし個人的には邪魔に感じるので付けない。
 三脚座は化粧リングがついてくることから分かる通り、脱着可能となっている。このため50-100mmや500mmのような上質な回転はなく、90度刻みのクリック感もない。しかしこの大きさのレンズに三脚座は個人的には不要に思うので、脱着できる方がうれしい。500mmはともかく50-100mmも脱着可能でもよかったなぁと思わないでもない。
 しかしアルカスイス互換になったのはうれしい。マンフロット405もアルカスイス互換に改造している身にはわざわざプレートを付けなくて済むのはありがたい。


 ハードウェア面ではフードがバヨネットではなく超望遠に付くようなネジでの脱着となったことも特徴的だ。フード先端がゴムとなっていることから考えてもおそらく前玉側を下に立てて置くことを想定したものではないかと思われるが、このサイズのレンズで立てて置くことがあるかは疑問に思ってしまう。バヨネットで脱着が楽なほうがよかった。

【追記】
 フードがバヨネットでない理由は直径が大きいと強度面でバヨネットにできないかららしい。

 今回からEマウント用も用意されている。レンズの全長がフランジバック分だけ長くなるためSLR用のパッケージでは対応できなくなるのでどのような対策を取るのかと思ったが、付属のレンズケースが上げ底構造になっていた。これなら詰め物を取るだけでEマウントにも対応できる。

 描写に関してだが、CP+のセミナーの内容を聞くに素晴らしい写りをするはずだ。
 では、以下作例。

_DQH0886
【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F2.8, 1/1000sec, ISO100】

_DQH0889
【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F2.8, 1/500sec, ISO100】

_DQH0891
【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F2.0, 1/2500sec, ISO100】

_DQH0899
【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F1.4, 1/2500sec, ISO100】

_DQH0900
【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F1.4, 1/2000sec, ISO100】

_DQH0910
【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F1.4, 1/400sec, ISO100】

_DQH0918
【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F5.6, 1/60sec, ISO100】

_DQH0921
【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F1.4, 1/1250sec, ISO100】

_DQH0928
【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F1.4, 1/4000sec, ISO100】

_DQH0940
【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F1.4, 1/800sec, ISO100】

_DQH0943
【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F1.4, 1/250sec, ISO100】

 素晴らしいの一言。撮っている最中、sdQHのファインダーを覗いているだけでもこのレンズはすごいと思ったが、現像して確信した。このレンズは本当にすごい。
 まず解像力が素晴らしい。8枚目の古民家は後ろの草にピントがあっているのだが、開放でコレだ。これが本当に有効径75mmの大口径レンズ開放の描写なのだろうか。
 軸上色収差は5枚目の厳しい条件かつ開放では緑色が見える。しかしその次の6枚目ではわずかに紫と緑が見えるが、拡大しなければわからないレベルだ。CP+のセミナーで軸上色収差が低減されたと語られていた内容は確かだった。他の写真も開放中心だが、それでも5枚目以外に目立つ軸上色収差は見られない。
 ボケ味も十二分に良い。STFやBBLの暴力的なまでになめらかなボケを知っているとそれらには及ばないが、だがしかし、思わずそれらボケのために様々なものを捨てている特殊なレンズたちと比べてしまいたくなるボケなのだ。SIGMAが「BOKEH-MASTER」を標榜しているだけはある。ボケ味が良いだけのレンズはあまたあるが、そのうちこの解像力を併せ持っているものはまずないだろう。
 また、被写界深度の薄さもとびっきりだ。さすが105mm F1.4。有効径としては135mm F1.8と同じなのだが、105mmのほうがシビアに感じた。私は普段ピントに厳密ではなく大抵は中央一点でAFを合わせコサイン誤差など気にせず撮影しているのだが、このレンズではコサイン誤差の存在がはっきりと分かってしまう。こういうときはフルタイムMFがありがたい。

 さて、恒例の解像力チェックだが、これだけの描写を見せつけられて点光源がどうのこうの言う必要があるだろうか。このレンズにはそんな無粋なものは不要である。という理由1割、めんどくさいという理由が9割で割愛する。あれ、すごく手間がかかるのだ。

 私は普段レンズやカメラのレビューにポエムをつけることはないが、このレンズを言葉で言い表そうとするとどうしても詩的になってしまう。
 何気ない風景でもこのレンズを通すだけで「らしく」なるのだ。開放からキレるピント面と柔らかなボケが被写体をドラマチックに浮かび上がらせる。ここまでならば大口径レンズによくある謳い文句だが、このレンズのすごいところはその両方を極めて高いレベルで実現しているところだ。
 ArtラインのDG単焦点レンズ全てを所有している私の個人的な意見としては、フラグシップを名乗るにふさわしいクオリティに仕上がっている。14mmの周辺画質や逆光耐性も素晴らしかったし、85mmや135mmの解像・ボケもよかったが、それでもこのレンズが一番だ。それほどこのレンズの衝撃はすごかった。

 このレンズの不満点だが、フードがバヨネットだったらよかったなぁ、というだけ。描写には文句のつけようもない。重量も多少重めではあるがサイズがさほど大きくもないので、120-300mmのように構えていて辛いということはまったくない。このレンズのレビューでは判で押したように「重い、でかい」と言われているが、105mm F1.4というスペックならばこんなものだろう。むしろNikonのものが特別小さいのだ。なによりたった1.6kgでこの描写が得られると考えれば軽いものである。
 私はこの105mmを1日使っただけで持っているレンズの中で一番好きなレンズに躍り出てしまった。
 このレンズならば何でも撮れる。風景も人も、すべての被写体を魅力的に浮かび上がらせてくれるだろう。