被写界深度の計算、許容錯乱円径をどのように設定するか?


 被写界深度は以下のWebページで計算できる。

被写界深度計算
http://homepage3.nifty.com/ruupictures/study/focus.html

【2017/12/10追記】
 上の被写界深度計算も下の目の解像度もリンク切れしていたのでハイパーリンクは解除した。

 上記Webページには入力フォームが4つある。レンズ焦点距離、F値、被写体までの距離、許容錯乱円径だ。
 このうち最初の3つはだれでも分かる。注意すべきは焦点距離を換算焦点距離ではなく実焦点距離で入力するくらいか。
 しかし、最後の許容錯乱円径は光学に興味のない人は聞いたことすらないかもしれない。
 このページでは最初から0.03mmという数値が入力されている。
 この数値は「0.03mmというのは35mmフィルム判でよく使われる数値のようです」とある通りよく使われている。場合によっては1/30mmともされる。
 しかしこの0.03mmが妥当か否か判断がつきにくい。そもそも被写界深度というもの自体がピントが合っているように「見える」範囲のことであり、これも人によって異なるだろう。

 そこで指標として「視力1.0の人の目の分解能」を利用してみる。

目の解像度
http://homepage2.nifty.com/ttoyoshima/Digicam/EyeRes.htm

 視力1.0の場合、分解能は1分となっている。また、人間の目の解像度が高い範囲が視野角45度という情報を信用して話を進める。
 このページに記載のある写真サイズ290×193mm、写真までの距離43cmの場合の許容錯乱円径を求めてみる。

 以下の数式では角度は度で入力するが、Googleで計算する都合上、式中でラジアンへ変換を行う。

 まず、視力1.0の人間での43cm離れた写真上の分解能を求める。

r = L*α*2*pi/360 …(1)
r:写真上の分解能[mm]
L:写真までの距離[mm]
α:目の分解能[度]
※αは十分小さいためtanα = αと近似する。

 L = 430[mm]、α = 1/60[度]の場合、rは0.1251[mm]となる。
 次に印刷サイズが撮像面の何倍に拡大されているか調べる。
 上記Webページに載っている290×193mmというサイズの縦横比が3:2でないため拡大率が縦と横で違ってしまうのだが、縦と横で大きい方の倍率を採用して計算することとする。

縦基準倍率:193/24 = 8.0417 …(2)
横基準倍率:290/36 = 8.0556 …(3)

 横基準倍率のほうが大きいため、横基準倍率を採用する。
 撮像面上の錯乱円径dを8.0556倍すれば写真上で0.1251mmとなるdを求めればいいため、式(1)と(3)より

d = r/M …(4)
 = 0.1251/8.0556 = 0.0155
d:許容錯乱円径
M:撮像面・印刷サイズの倍率

 というわけで、上記条件では35mm判ならば許容錯乱円径は0.0155mmと、一般的に使われる0.03mmの約半分となった。
 なお、トリミングを行う場合は式(2)、(3)において倍率Mをトリミングする範囲の撮像面サイズで計算する必要がある。
 ちなみに2570万画素のα900の画素ピッチは
sqrt((36*24)/25700000) = 0.005798
 であり、0.0155mmは2〜3ピクセルとなる。あまりに画素数が少ない場合やトリミングを行いすぎた場合は許容錯乱円径が画素ピッチを下回る場合があるが、その場合はそもそも拡大しすぎだ。

 また、視野角45度で写真が収まるまで近づいた場合の計算であるため、目の解像度も角度で計算する以上、同様の条件であればサイズがA3やそれ以上となっても許容錯乱円径は同じになる。
 具体的に計算してみると、まず鑑賞距離Lはアスペクト比3:2の場合

tan(45/2*2*pi/360) = (sqrt((3/2lM)^2+(lM)^2)/2)/L
L = (sqrt((3/2*lM)^2+(lM)^2)/2)/tan(45/2*2*pi/360)
 = (sqrt(13)*lM/4)/tan(45*pi/360) …(5)
l:撮像面短辺長さ[mm]

 写真上の分解能は式(1)と同様なので、式(5)のLを代入すれば
r = (sqrt(13)*lM/4)/tan(45*pi/360)*α*2*pi/360 …(6)

 これを式(4)に代入すれば
d = (sqrt(13)*lM/4)/tan(45*pi/360)*α*2*pi/360/M
 = (sqrt(13)*l/4)/tan(45*pi/360)*α*2*pi/360 ……(7)

 この通り式の倍率Mが消える。残った変数は撮像面短辺のl、目の分解能αだけなので、l = 24[mm]、α = 1/60[度]を代入すれば0.01519mmとなる。式(4)で計算した値との誤差は鑑賞距離等の丸めが原因だろう。
 デジタルカメラでは実際の撮像素子は35mm判よりもごくわずか小さいことがほとんどであること、周辺部の画素は有効画素とならず捨てられることを考えれば概ね0.015mmと考えていいのではないだろうか。
 なお、短辺を16mmにすればAPS-Cの場合が計算できる。

 この計算では鑑賞距離をこれ以上近づいても意味がない距離まで近づいた場合としている。つまり0.015mmは35mm判での許容錯乱円径の下限であると言える。
 しかし視力1.0の人間が写真を視界いっぱいまで見られるまで近づいたときに判別できる限界を許容値とするのは少々基準が厳しすぎる気がする。そこまで細かく観察する人は印刷した本人くらいではないだろうか。
 とはいえ、じゃあどのくらいを基準にするかと言われると明確な基準が設けられないのも事実。実際は自分が何mmまで許容できるかは自分で確認するしかない。

 また、この計算は概ねA4以上の大きさでなければ鑑賞距離が近すぎるだろう。
 例えば89×127mmのL版に印刷した場合、倍率は35mm判で約3.7倍だが、式(5)で鑑賞距離を求めると約20cmとなる。写真をつぶさに観察するならばそのくらい近づけるだろうが、あまり一般的な鑑賞ではない。アルバム等に挟んだものを見るならば鑑賞距離は40cm程度ではないだろうか。
 というわけでL版で鑑賞距離40cmの場合に式(1)、(4)で計算すると35mm判で0.0314mmとなる。式をよく見ると鑑賞距離が2倍になれば許容錯乱円径も2倍になることがわかる。

 このとおり、自分が最終的にどのサイズに出力し、どこまで詳細に鑑賞するかによって許容錯乱円径はいくらでも変化しうる。
 私の場合はそこまで拡大しないうえ、細かい部分まであまり見ないのでよく使われる0.03mm、APS-Cでは0.02mmでいいんじゃないかと思っている。

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